【2018年度 活動進化プログラム】公開講座レポート #05

レポート2019年02月27日

#05 SDGs×観光:京都の持続可能な観光のために私たちができること

 

“みんなごと”のまちづくり推進事業は、京都がもっとよくなる、もっと住みやすくなる提案を、市民から募集し、行政と民間が一体となって実現を目指す協働事業。全5回の公開講座では、まちづくり・お宝バンク に提案をされている方、またはこれから提案しようと考えている市民に向けて、企画、広報、資金調達の手法の講座と実践者のトークがおこなわれます。

(※みんなでつくる京都 まちづくり・お宝バンク)

 

 

第5回目となる今回のテーマは「SDGs×観光:京都の持続可能な観光のために私たちができること」です。自己紹介タイムの後は、今回のゲストであるあっちこっちプロジェクト代表のマナベ リョウさん、TABICA訪日事業部 関西代表の西村 環希さん、岩戸山ソーシャル寄町 代表の吉岡 史樹さんからそれぞれの取組みが伝えられました。

 

あっちこっちプロジェクト マナベ リョウさん

 

高校卒業後アメリカのロードアイランド州にあるアートスクールで過ごされたマナベさん。正解じゃなさそうな方向に行きなさいという雰囲気の中でとにかく前に投げ出す姿勢を学んだと言います。

 

日本に帰ってきて衝撃を受けたのは、まちで地図を広げて困っている外国人観光客に声を掛ける人が少ないという事でした。「なぜ日本人は声をかけないのか?」という素朴な疑問から、2013年にあっちこっちプロジェクトを立ち上げ、声を掛ける人が増えるように活動しています。

 

マナベさんは道案内をする時も正確な情報を伝えるだけではなく、人と人のつながりを大切にしたいと話します。会員証であるバッジには一富士二鷹三茄子の三つのデザインがあります。ビギナーの人はナスのバッジ、経験値が上がってくると鷹、富士のバッジにレベルアップします。バッジの存在が旅行者にも知られてくると、その人の英語力も可視化され、お互いに配慮しながらコミュニケーションが取れる仕組みです。このようにそれぞれが自分の出来るベストをしていくことが旅行者にとっても良い体験となるのだと言います。

 

学校で習ってきたものが使える喜びや海外の人がどんな風に日本を見ているのかを知れるチャンスにもなるなど、困っている旅行者に声を掛けた時に、教える側が得るものも多い。

それらは、声を掛けるところから全てが始まるので、こういったチャンスを英語が喋れる人だけでなく多くの人に体験してほしいと考えています。その工夫の1つとして目的地までのルートを細かく分けて、最寄りのバス停までなど、バトンリレーのようにしていく方法をとっています。

 

The road is better than the inn.”旅の一番の思い出は、目的地で何をしたかではなく、そこに着くまでの道中で出会った人たちと交わした言葉や、そこで得た経験や気づきであることが多い。ドン・キホーテの著者セルバンテスの言葉を引用して、ただのルートの情報を伝えるだけでない、接点が多く生まれたくさんのストーリーを共有していきたいと話しました。

 

 

TABICA訪日事業部 関西代表の西村 環希さん

 

TABICA訪日事業部 関西代表の西村さん。地域の暮らしの体験など、誰かにとっての日常も誰かにとっては非日常、誰かの日常を気軽に体験出来るサービスTABICA関西を京都で立ち上げられています。

 

TABICAのカテゴリーはまち歩き、ワークショップ、日本文化体験、自然体験の4種類。地域の案内役のホストさんと体験をするゲストさんがTABICA上でマッチングすると体験が開催される仕組みです。

ゲストはこのサービスを利用することで、自分の日常の再発見ができ、自分の日常が誰かにとって新しい体験となり副収入にもつながります。廃業寸前だった六地蔵のウナギ屋さんはTABICAを始めたことで今でも営業を続けられているといいます。ゲストにとっては、そのホストならではのユニークな体験が出来ること。その時、その人、その場所でないと出来ない事、一般的な観光地を巡る観光だけでは出来ないことを体験できます。

 

事業は日本人向け、公官庁向け、訪日外国人向けの3つあり、西村さんは訪日外国人向けのサービスを担当されています。

カテゴリーはまちあるき、農業体験、文化体験、クッキング体験、自然体験があります。そばづくり、豆腐づくり、合気道、居合道が人気の体験となっており、ホスト数は約130人、150件の体験ができます。英語を話せる人同士ではなく、日本語が話せない外国人にもほんまもんの師匠の元での体験もでき、北区新大宮商店街にある豆腐屋を営むホストさんは英語が話せませんが、豆から豆腐を切るところまで体験できることや、豆腐作り後の家庭料理、ホストが住む京町屋を案内してもらえるなど、アットホームな体験が高い満足度につながっていると言います。

 

 

 

岩戸山ソーシャル寄町 吉岡 史樹さん

 

祇園祭で山鉾が出る岩戸山町。祇園祭は基本的には町内それぞれが独立して運営しており、岩戸山町では岩戸山保存会がその役割を担っています。

 

保存会の理事でもある吉岡さんはそこで、岩戸山ソーシャル寄町を立ち上げました。ソーシャル寄町は、元々鉾を出す町以外からの物的な支援をする寄町(よりちょう)という鉾町を支える組織があり、そいうった歴史的な経緯を引き継ぎつつ、町外からも祭りに参加する人を増やしたいとSNSでの呼びかけている取組みです。

 

岩戸山ソーシャル寄町は2016年に発足。毎年春ごろに新しい仲間を呼びかけて、お祭りに向けて取組みを進めていきます。お祭りが始まると、ちまきの売場、鉾立の記録、神楽の運営補佐。町内の飾りつけ、巡行のサポート、鉾の片づけなどをしてもらいます。

 

みんなでちまきを作る際に後ろでグラフィックレコードをしてもらうことで、これまで長老たちの口伝えであった、ちまきの作り方を記録して残していくこともされています。

 

日本のお祭りは基本的に毎年一から作り直すという特徴もソーシャル寄町にも取り入れており、岩戸山ソーシャル寄町は固定メンバーのようにはせず毎年募集しています。これまでは町内に住んでいる人で構成してきた範囲をネットに広げていった時に、それでもお祭りという形を維持継続できるのかを試しながらやっている所。普通の祭りだと、いつもの人と飲み食いして、というこれまでの祭りがネット時代に変わっていけるのかという検証もしていると話します。

 

これまでは町内外の境界意識は強かったが、このままいくと近い未来に後継者がいなくなってしまうかもしれない。町の内側と外側、そこに住む人とたまたま来ている人、ボランティアで来ている人、観光で来ている人、それらの境界をぼやかしていきながら、問題に対して時間を掛けて継承の仕方を考えたいと思っているとのことでした。

 

 

発表の後は、進行の東と参加者から質問を投げかけつつセッションタイム。

 

「ソーシャル寄町でどのくらいの人とつながった?」

吉岡さん:毎年20,30人くらいの方が参加して下さっています。半分が社会人で半分が学生。学生さんだと卒業して京都では無い地域に行ってしまう人が多いが、社会人で来られている方はほぼ毎年来られています。

 

「バッジの意味は訪日旅行者にはどうやって認知させているのか?」

マナベさん:旅行者は一過性なので、次の人につながっていかないんですね。皆さんからアドバイスを頂きたいと思っています。認知が広がれば、バッジを付けている人のモチベーションにもつながるし、なすびのバッジを付けている人のチャンスも増えるから。

 

「訪日観光事業の所で、言葉が通じない人同士がどのように仲良くなるのか?」

西村さん:ホストさんは最初、自分の体験は受けないと思っている方が多いので、一回だけ始めてみませんかと言って始めてみると意外に楽しいと続けられます。旅行者は興味を持ってやってきてくれるので、すごく楽しそうに色々聞いていて、体験を通じて二人が繋がりあっている様子が見て取れ、そういったところをホストさんもゲストさんも感じているんじゃないかなと思います。ホスト自身が言語の壁があることもわかっているので、勉強もされています。

 

「あっちこっちのプレイヤーはどんな方が多い?ガイドさんへのトレーニングは?」

マナベさん:後半の質問から答えると、あっちこっちは呼びかけなので、実際の道案内はメンバーのみなさんの自主性に任せています。そういうトレーニングをもっとしっかり提供していければいいのですが、今のところ運営側では「気づいてもらう」という所に注力しています。フィールドワークなどで、実践経験を積む場合は出発前にコミュニケーションのマナーなどを学ぶ機会を作っていて、そういうステップを踏んでくれる方は安心できる。来られる方は多様ですが、一番多い層は主婦の方。年齢的には50代から上が多く、女性が8割以上だと思います。

 

「困りごとやトラブル。解決した事例は?」

マナベさん:失敗前提でやっているので、やるたびに良くなるという自信があります。ゼロから作り上げてきたプロジェクトなので、試行錯誤の末に得られるものを楽しみにしています。とはいえメンバーのみなさんに迷惑がかかるような失敗は避け、次につながる失敗を心がけています。

 

吉岡さん:祇園祭の期間中にある方が話されていたことですが、「祭りには毎年トラブルが起こることはある。予想していなかったことが起こるが、なぜか最終的には上手くいく。その理由は誰にもわからん(笑)。祭りはそういうものだ。」と言っていてそうだなぁと思うところがある。お祭りの一番の失敗はお祭りが続かないことなので、そうでなければ失敗ではないという、最近ではなんとなくその感覚が分かってきて、例えば人の間のトラブルがあったとしてもお祭りの起源や神事としての行事という軸を共有している限りはお祭りは大丈夫。私の役割として、その土地に住んでもいない人と一緒にお祭りを作っていく時にそういった感覚をどこまで共有できるのかという課題はあります。

 

西村さん:地元の人が提供するディープなスポットを知ってほしいが、売れるのは有名な観光地を巡るサイクリングツアーや食べ歩きというジレンマがある。まずは売れる体験に注力しつつも、次の年は自社でしか出来ない体験を作って良ければと思っている。

 

「これからの京都の観光、2019年取り組んでいくこと」

マナベさん:1年ぐらい前に新しいスペースにベースを移動しているので、そこを安定していくのが目標です。拠点がある分受け皿は増えたので、レベルアップしていきたいですね。京都で錦市場を見ているとはらはらする。観光客から見られる自分を内面化した上でお店をしているようで、自分達が本当に何をしていきたいのかが分からなくなっていないか不安になります。

 

西村さん:ツアーをつくる側からの意見として、バスで旅行者が乗っているから住民が乗れないとか、そういう部分に違和感があります。観光客は少し高く払うなど分ける所と一緒にする所を考えるべき。観光用のお店ではなく、地元の人のところにお金が落ちる仕組み、地域に還元できるようにしていきたいです。

 

吉岡さん:今年、岩戸山町にホテル建設が増えて、毎週のように近隣説明会に行ってたんです。鉾町という独特な文化を持っているが故に、外から来る人への不安を説明するが、ホテル業者はきょとんとしている。ホテルを建てる人にとっては、地元が何を懸念しているのかわかりにくいと感じているようで、折り合いがつきずらいようなケースもあった。しかし、ホテルが増え、観光客が増える流れを変えられないのであれば、そこに泊まりに来る観光客の1人か2人でもソーシャル寄町に参加してもらえるようにしたいと思う。

ソーシャル寄町に参加する為にホテルに泊まりに来るという形が作られると次のステージに進めそうな気がする。全て拒絶することもなく、伝統も守っていく。環境変化に対して対応していく、一つのリトマス紙として、ホテルがいっぱい増えた町内がそれでもいい雰囲気で祭りをしていたら、すごく進歩できているかなと思います。

 

休憩を挟み後半は会場にいる参加者自身が考えていたことを紙に書き、グループになって話し合いました。

 

 

各グループからの共有では、SDGsをテーマにして情報発信の場にしたホテルの話やバラバラになっている観光客をあっちこっちの方がいるという情報と連動させて導線を作るという案、神社仏閣に掃除する代わりに見学させてもらうという、日本の掃除の文化を海外の人にも体験してもらう案などが共有されました。

京都の観光というテーマで、観光業に携わる方のみならず、地域の方や学生など、たくさんの人に関心を持っていただけた今回の講座では、それぞれの視点から見える京都のまちが混ざり合い、新たな発見の生まれる場になったのではないでしょうか?

今回もグラフィックレコーディングは稲垣奈美さんがわかりやすく描いて下さいました!

 

CONTACT